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札幌高等裁判所 平成7年(ネ)435号 判決 1998年9月10日

主文

一  原判決主文第一項のうち被控訴人甲野太郎に関する部分を除く部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人乙山松夫、同丙川竹夫、同丁原竹子、同戊田梅夫及び株式会社甲田が、控訴人に対し、別紙「確認債権目録その2」のうち当該被控訴人に対応する「債権金額」欄記載の各金員の支払義務を負わないことを確認する。

2  右被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  原判決主文第二項を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人丙川竹夫に対し一二四円、同丁原竹子に対し二一万七八一五円及び右各金員に対する平成四年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、同乙野春夫に対し一〇九万〇一七六円、同株式会社甲田に対し三七万四一七一円及び右各金員に対する平成四年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  被控訴人甲野太郎及び同戊田梅夫の各請求並びに同丙川竹夫、同丁原竹子、同乙野春夫及び同株式会社甲田のその余の請求をいずれも棄却する。

三1  原判決主文第三項及び第四項を取り消す。

2  被控訴人乙山松夫の請求をいずれも棄却する。

四  控訴人のその余の控訴を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1 原判決のうち控訴人敗訴の部分を取り消す。

2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

原判決別紙「確認債権目録」のうち被控訴人戊田に関する部分を別紙「確認債権目録その1」のとおり訂正し、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」第二の記載のうち被控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四枚目表四行目から五行目にかけての「一般通話料」を「ダイヤルQ2通話以外の通話(以下『一般通話』という。)の料金(以下『一般通話料』という。)」に、同裏末行の「被告は」を「右情報料は一二ランクに分かれ、また、ダイヤルQ2通話料は一般通話料と同一基準で一〇円当たりの利用可能秒数が設定されている。控訴人は、右情報料のランクに基づいて、ダイヤルQ2通話料とダイヤルQ2情報料を回収するための合成秒数を定め」に改める。

二  同三六枚目表三行目の次に行を変えて「本件情報料の債権者はIPであり、被控訴人らはIPに対し債務不存在確認を求めるべきであって、控訴人に対する訴えは不適法である。」を加え、同五行目の「該当する」から六行目の「行使しない」までを「該当する。また、ダイヤルQ2(情報回収代行サービス)に関する契約書(以下「ダイヤルQ2契約」という。)一七条は、契約者が回収代行に応じなかった場合には、控訴人は、IPに対し情報料の支払義務を免れ、回収代行を行わないものとしている。したがって、控訴人は、被控訴人らから支払を拒絶された情報料について、回収代行権を喪失しており、被控訴人らに対して請求する法的根拠を欠いているので、今後、被控訴人らに対し、本件情報料を請求することはない」に改める。

三  同三六枚目裏一行目の「残されている。」の次に「そして、ダイヤルQ2契約一七条は、控訴人が回収できない情報料はIPに対し支払義務を免れるとする規定であり、控訴人の回収を禁止する規定ではない。」を加える。

四  同三八枚目表四行目の次に行を変えて「なお、同条はダイヤルQ2の利用者が契約者回線を利用するものであるから、ダイヤルQ2の利用者が契約者と異なる場合でも、通常は家族など契約者と一定の関係にあり、契約者の承諾を得ているものと考えられるので、同条の定めは契約者の意思に沿っているし、仮にそうでないとしても、契約者は別途利用者に料金を請求し、回収することができるのであるから、右のような画一的、定型的処理には合理性がある。」を加える。

五  同四四枚目表一〇行目の「第三者による利用を含め」を「また、契約者以外の者が契約者回線から行った通話について、契約者の承諾の有無、当該利用が契約者の管理可能な状況にあったか否か、通話内容や通話目的の如何を問わず、電気通信設備(電話回線設備)の利用という外形的事実にのみ着目して、」と改める。

六  同四四枚目裏二行目の次に行を変えて「ダイヤルQ2と一般通話は、いずれも控訴人が提供する既設の電話回線を利用して通信がされることにおいて、異なるところはない。そして、その会話内容がいかなるものであっても、およそ電話回線設備を使用するのであれば全て同一料金を適用する前提で、約款一一八条が制定されていることは右のとおりである。」を、同七行目の次に行を変えて「なお、約款一一八条は、通話料の支払義務を画一的、一義的に契約者のみに負わせた規定であり、利用者に通話料の支払義務を負わせることはできないので、控訴人が利用者にダイヤルQ2通話料を請求する法的根拠はない。」を加える。

七  同五一枚目裏四行目の「一方」から同六行目の「あったとしても」までを「したがって、実際にダイヤルQ2を利用した者に情報料相当額の利得が存しており」と改める。

八  同五二枚目表五行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「控訴人のIPに対する情報料の支払は、それが支払義務のない加入電話契約者から回収したものであっても、ダイヤルQ2契約に基づく給付であり、法律上の原因のない給付ではないから、控訴人はIPに不当利得返還請求権を有しない。

仮に、控訴人がIPに対し不当利得返還請求ができるとしても、一部については時効消滅しており、また、情報料と通話料を区別した明細がないものについてはIPの特定すらできず、IPに対して請求することができないから、控訴人がIPに対し情報料相当額の返還請求ができないことについて特段の事情があるので、利益は現存しないというべきである。」

九  同五二枚目裏六行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「(控訴人の主張)

控訴人は被控訴人乙山が、ダイヤルQ2通話料はもとより、平成三年七月分の基本料金のほか、一般通話料等の支払さえも行わなかったため、同年八月、本件加入電話の発信規制を行い、さらに、同四年四月、利用停止措置を講じたものである。もっとも、被控訴人乙山は、同年二月、ダイヤルQ2通話料及び情報料を除いた電話料金を控訴人に送金しているが、債務の本旨に従った弁済の提供とはいえず、利用停止措置が違法とはいえない。仮に、ダイヤルQ2の通話料について被控訴人乙山に支払義務がないとしても、右当時において、支払義務があるとの解釈は十分成立する余地があったし、被控訴人乙山の承諾があれば右支払義務があるから、その点からも利用停止措置が違法とはいえない。そして、その期間中の基本料金等の不払を理由として本件加入電話契約を解除したもので右解除は有効である。

なお、情報料債権はIPの債権であるから、その不払を理由として右利用停止をしたものではない。」

第三  当裁判所の判断

一  本件情報料についての債務不存在確認の利益

当裁判所も、被控訴人らの本件情報料についての債務不存在確認の訴えは確認の利益を有するものと判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」第三の一に説示のとおりであるから、これを引用する。

なお、控訴人は、ダイヤルQ2契約一七条により、被控訴人らに対しては、IPの代理人としての回収代行権限を失っている旨主張する。しかし、同条は「甲(控訴人)が通常の請求手続をなしたにもかかわらず利用者が甲の回収代行に応ぜず、その他甲の責に帰すべき事由によらずに甲が回収できない有料情報サービスに係る料金については、甲は乙(IP)に支払わない。」としているところ、右条項は、回収不能の情報料を控訴人がIPに支払う義務が消滅することを規定することは明らかであるが、右文言からは、控訴人の回収代行権限の消滅を規定したものと解すことはできないのであって、控訴人の右主張は採用することができない。

二  ダイヤルQ2の利用に関する事実関係及び利用状況

1 事実関係

(一) 被控訴人甲野について

ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年六月一五日から同年九月五日までである。これは被控訴人甲野の次男である二郎(昭和四八年二月四日生)が利用した。そのころ、二郎は、北海道電子専門学校の一年生で、親元を離れ、札幌市《番地略》グランドール丸和三〇二号室を借りて一人で生活していた。その部屋には、被控訴人甲野が加入者となっている電話が設置されており、この電話を使用してダイヤルQ2が利用された。同被控訴人の妻が、同年九月上旬に二郎の部屋を訪れた際、控訴人から同被控訴人宛の多額の電話料請求書を発見し、二郎に問いただしたところ、ダイヤルQ2の利用を打ち明けられた。同被控訴人は妻からこれを聞いてその事実を初めて知ったが、それ以前にはダイヤルQ2という制度すら知らなかった。同被控訴人は、二郎がそれ以上ダイヤルQ2を利用できないようにするため、同年九月一三日ころ、控訴人に申し入れてその利用廃止手続をとった。

(二) 被控訴人乙山について

ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年六月一三日から同年八月二六日までである。これは被控訴人乙山の次男である一郎(昭和四八年三月二八日生)が利用した。そのころ、一郎は、東海大学の一年生であり、同年四月から神奈川県《番地略》メゾン厚木一〇二号室を借りて一人で生活していた。その部屋には同被控訴人が加入者となっている電話が設置されており、この電話を使用してダイヤルQ2が利用された。同年一〇月七日、控訴人厚木支店から同被控訴人に対し、同年六月ないし八月の電話料金が未納で、一郎に請求しても支払がないから被控訴人乙山に支払ってほしいとの電話連絡があった。同被控訴人はダイヤルQ2がどういう制度であるか知らなかった。

(三) 被控訴人丁原について

ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年五月三〇日から同年七月四日までである。その間の生活状況は、主婦でパート勤務の被控訴人丁原、仕事をしていた夫、長男三郎(昭和四七年三月三〇日生)の三名が札幌市《番地略》の自宅に同居していた。三郎は専門学校生であり、比較的時間の余裕があった。右自宅の居間に、同被控訴人が加入者となっているプッシュホン式の電話が一台設置されていた。同被控訴人は、同年六月ころ、控訴人から五〇万円もの電話料金の請求があり、夫に控訴人の月寒営業所に確認に行ってもらって、ダイヤルQ2の利用がされたことを知った。同被控訴人は、それ以前はダイヤルQ2という制度自体を知らなかった。同被控訴人が三郎に確認したところ、同人はダイヤルQ2の利用を認めた。その利用時間の大半は昼間であり、ほとんど同被控訴人やその夫が留守の時間帯であった。被控訴人丁原はダイヤルQ2の利用廃止手続をとった。

(四) 被控訴人戊田について

ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年九月三〇日から同年一一月一日までである。その間、被控訴人戊田は、札幌市《番地略》に妻、長男、長女(当時中学一年生)、妻の母と同居していた。同被控訴人とその妻は昼間仕事に出ていて夕方まで不在であり、長男も専門学校に通学しており、昼間は留守であった。同被控訴人宅の居間に、被控訴人戊田が加入者となっているダイヤル式の電話が一台設置されていた。長女の部屋は居間の隣であり、ドアは引き戸なので、長女が受話器だけを部屋に引き入れて電話することもあった。被控訴人戊田は、同年一〇月分の電話料金の請求書が控訴人から送られてきて、その金額が通常の月よりかなり高額であったため、控訴人の北営業所に問い合わせた結果、ダイヤルQ2の利用がされたことを知った。同被控訴人が長女に確認したところ、同人はダイヤルQ2の利用を認めた。同被控訴人は、それ以前には、ダイヤルQ2の存在を知らなかった。控訴人からダイヤルQ2の利用廃止制度があることを教えられ、同年一一月ころその措置をとった。

(五) 被控訴人乙野について

ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年四月一三日から同年五月二六日までである。これは被控訴人乙野の次男である四郎(昭和四六年七月二九日生)が利用した。四郎は、同年に札幌の北海道理容美容専門学校を卒業する直前に、札幌市《番地略》コーポ喜美に部屋を借りて一人暮らしを始めた。同被控訴人は、四郎のためにその部屋に同被控訴人加入名義の電話を設置した。同被控訴人は、同年五月下旬、控訴人の白石営業所の職員から電話で、同年五月分の電話料金が一〇〇万円近くの高額になっているので、同営業所に来てもらいたいと求められ、四郎に確認したところ、四郎はダイヤルQ2の利用を認めた。同被控訴人は、そのときまでダイヤルQ2の制度の仕組みを知らなかった。同被控訴人は、右営業所から電話が来た数日後に、妻と四郎を伴って、同営業所を訪れ、ダイヤルQ2について初めて詳しい説明を受け、利用停止の方法があることを教えられたので、その場でその措置をとった。

(六) 被控訴人甲田について

被控訴人甲田は、不動産賃貸業や宿泊施設の賃貸・経営等を目的とした会社であり、札幌市《番地略》に「リリーハイツ一一」という五階建てのマンション(平成元年三月新築)を所有し、学生や予備校生を対象とした下宿業を営んでいる。同マンションには入居者専用の同被控訴人加入名義の三本の電話回線が設置されており、これらの電話回線を使用してダイヤルQ2が利用された。利用期間は平成二年九月二六日から同四年三月二五日までである。同マンションはワンルーム形式の下宿であり、部屋数は二八室ある。入居者の構成は予備校生、高校生が主で、平成四年一月当時、入居者数は二七名で、うち高校生が一〇名、予備校生が一二名であった。各部屋の全てに電話機が設置されており、三本の電話回線を交換機を通して各部屋に分配する形式となっているが、控訴人との間では「ダイヤルイン」サービス契約を締結していて、各部屋の電話に個別の電話番号が付されている。外部から入居者に電話をする場合には、各部屋の個別の電話番号をダイヤルすることによって、三本の回線に空きがある限り、直接各部屋に通じる仕組みになっている。また、各部屋の電話から外部に電話する場合にも、直接各部屋の電話機から通話することができ、通話料金は、管理装置によって、各部屋ごとの通話料金を累計記録するようになっている。同被控訴人は、各月末に右料金管理装置により累計記録された各部屋の電話料金を各入居者から徴収するが、控訴人からは、各加入回線ごとに三通に分けて、電話料金が請求される。同被控訴人は、右徴収額と控訴人からの請求額との対照については、精算時期が異なるなどの理由から行っていなかった。同被控訴人は、平成四年二月下旬、控訴人から、同被控訴人の加入電話を使用してダイヤルQ2が利用され、その料金が高額になっているとの通知を受け、初めて、入居者がダイヤルQ2を利用していること及びその料金が右料金管理装置では記録されないことを知った。それまで、同被控訴人は、控訴人から、右管理装置によってはダイヤルQ2料金が記録されないことの説明を受けたことはなかった。同被控訴人は、同年三月、ダイヤルQ2の利用停止をするとともに、入居者に対してダイヤルQ2の利用について確認したが、誰がどの程度利用したのかを特定することは困難であった。

(七) 被控訴人丙川について

(1) 被控訴人丙川の加入電話回線を使用してダイヤルQ2が利用され、その期間は、平成三年一一月から同四年一月までである。その間の被控訴人丙川の家族構成は、同被控訴人(昭和一七年九月一日生)のほか、妻松子(昭和一九年五月二二日生)、長女春子(昭和四六年七月七日生)、長男五郎(昭和四九年四月二二日生)の四人であった。同被控訴人は丁川製網船具株式会社札幌支社に勤務し、妻は戊原デパートのアルバイト(朝から夕方まで)をしており、長女は医療短大の二年生、長男は高校二年生であった。同被控訴人の家族は二階建ての一戸建て住宅に住み、電話機は一階の居間に一台だけ設置されていた。平成四年一月下旬、控訴人から電話料金の請求書が送られてきて、その中に「ダイヤルQ2情報料」という項目が入っており、同被控訴人は、自宅の電話からダイヤルQ2が利用されたことを知った。同被控訴人及び妻松子は、当時ダイヤルQ2の利用方法を知らなかった。ダイヤルQ2はほぼ土曜日、日曜日及び祭日に利用されているが、利用番組はツーショットやラブタイムファンタジー等若年向けのものばかりである。

(2) 右事実によると、同被控訴人の加入電話は、同被控訴人の占有管理下にあり、特段の事情がない限りは、加入者ないし同居人が使用したと推認することができるところ、ダイヤルQ2の利用番組の内容、年齢、職業等に照らし、同被控訴人及びその妻がダイヤルQ2を利用したと認めることはできないが、長女あるいは長男がダイヤルQ2を利用したものと推認することができる。《証拠判断略》

2 各被控訴人の加入電話からのダイヤルQ2の利用状況

(一) 後記(1)ないし(5)の被控訴人らの加入電話からは、以下に示す書証番号のとおり、利用者によって各書証の「通話開始年月日」「通話開始時間」に「通話時間」の間「ダイヤルQ2番組番号」(同番号と具体的情報提供者の関係は《証拠略》のとおり)に電話がされ、ダイヤルQ2通話料及び情報料として、原判決別紙「原告請求額等内訳表」の「被告請求額」欄記載のとおりの金額を要したことが認められる。

(1) 被控訴人甲野《証拠略》

(2) 同乙山《証拠略》

(3) 同丙川《証拠略》

(4) 同丁原《証拠略》

(5) 同戊田《証拠略》

(二) 被控訴人甲田

ダイヤルQ2情報料と同通話料とを分計できるものについては、《証拠略》によって、また、一般通話料とダイヤルQ2通話料及び情報料さらにはダイヤルQ2通話料と情報料とを分計できない期間のものについては当事者間に争いがないものとして、それぞれ原判決別紙「原告請求額等内訳表」の「被告請求額」欄記載のとおりのダイヤルQ2通話料及び情報料がかかったことが認められる。

そして、《証拠略》によると、平成三年七月から同四年二月までの被控訴人甲田の加入電話回線を使用したダイヤルQ2利用の通話料と情報料の比率は、約一対三の比率となることが認められ、これらを分計できない平成二年一一月から同三年六月までと同四年一月の一部についても、その比率を一対三とするのが相当であり、右期間中の三本の電話回線によるダイヤルQ2情報料の合計は一四万六四四六円(2,962+28,266+115,218=146,446)、ダイヤルQ2通話料の合計は四万八八一〇円(992+9,417+38,401=48,810)となる。

(三) 被控訴人乙野

《証拠略》によれば、被控訴人乙野については、同被控訴人が通話料などの支払をしたため、控訴人の内部規程に基づき、支払の一か月後にコンピューター記録が抹消されており、利用明細の記録が存しないが、本件請求期間(平成三年五月分及び六月分)中に、同被控訴人の次男四郎がダイヤルQ2及び一般通話を利用したことが認められる。右期間のダイヤルQ2通話料、情報料及び一般通話料を分計することはできないが、全てをダイヤルQ2通話料及び情報料と認定するのが相当でないから、一般通話料を推計の方法により算定し、電話料金総額から右推計に係る一般通話料を控除した金額をもってダイヤルQ2通話料及び情報料の合計と認めるのが相当である。

ダイヤルQ2を利用していない平成三年四月分(平成三年四月二日から同月一五日までの一四日間)の同被控訴人の加入電話の一般通話料は一一二〇円であるから、一日当たりの平均通話料は八〇円と算出される。したがって、一般通話料は、平成三年五月分が右平均通話料に三一日を乗じて得た二四八〇円、同年六月分が三〇日を乗じて得た二四〇〇円と算定できる。前記本訴請求期間中の電話料金総額(平成三年五月分が九〇万一七七〇円、同年六月分が四六万五八三〇円)から、右推計に係る一般通話料をそれぞれ控除すると、平成三年五月分が八九万九二九〇円、同年六月分が四六万三四三〇円、合計額は一三六万二七二〇円となり、右金額が本訴請求期間におけるダイヤルQ2通話料及び情報料の合計と認められる。

そして、《証拠略》によると、平成三年度におけるダイヤルQ2の通話料と情報料の全国比率が一対四であることが認められ、他に的確な資料のない本件においては、これを推計に用いるのが相当であり、これを同被控訴人の一般通話料を除いた本訴請求期間におけるダイヤルQ2通話料及び情報料の合計に適用すると、平成三年五月分の通話料が一七万九八五八円、情報料が七一万九四三二円、同年六月分の通話料が九万二六八六円、情報料が三七万〇七四四円となり、二か月分のダイヤルQ2の通話料の合計が二七万二五四四円、情報料が一〇九万〇一七六円となる。

三  ダイヤルQ2情報料の支払義務

1 電話加入者のダイヤルQ2情報料の支払義務に関する当裁判所の判断は、原判決の「事実及び理由」第三の二1(原判決八枚目表四行目の冒頭から同一一枚目裏五行目の末尾まで)に説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決九枚目表二行目の「所以」を「理由」に、六行目及び七行目の各「被告」を「利用者」に、同裏九行目の「なければ」を「いなければ」に、一〇行目の「そして」を「そうすると」にそれぞれ改める。)。

2 これを本件について検討すると、本件全証拠によっても、被控訴人ら自身がダイヤルQ2を利用したことはもとより、その家族その他の同居人又は下宿人等にダイヤルQ2を利用することを承諾していたことも認めることができず、かえって、前記第三、二で認定した各事実によると、被控訴人らはダイヤルQ2を利用していないし、家族等が利用することについての承諾をしていなかったものというべきである。

よって、被控訴人らには、その加入電話回線からダイヤルQ2が利用されたとしても、その情報料の支払義務はないというべきである。

四  ダイヤルQ2通話料の支払義務

1 約款一一八条は、電話回線の利用の料金について、その通話内容、通話料金額、利用についての契約者の承諾の有無を一切考慮せず、画一的にその通話料金を支払うべき者を契約者と定めているが、それは電話料金の徴収事務経費を最小限に抑え、等しく低廉で合理的な料金体系を適用して電気通信役務を広く提供しようとする目的のためであり、一定の合理性を有するものということができる。

ところで、既に説示したとおり、ダイヤルQ2は、電話回線を使用した有料情報サービスであり、その利用形態は一般通話と異ならず、その通話料も一般通話と同一に設定されていること、前記認定のとおり、本件においては、被控訴人らの家族その他の同居人又は下宿人等によりダイヤルQ2が利用されており、被控訴人らにおいて、ダイヤルQ2の情報提供を受けることを承諾していたとは認められないが、それらの者が電話回線を使用すること自体については、これを許諾していたものと認められることからすれば、約款一一八条の適用があると解するのが相当である。

したがって、ダイヤルQ2通話料については、契約者である被控訴人らは、ダイヤルQ2を利用することについて承諾をしていたと否とにかかわらず、その支払義務があるというべきである。

2 被控訴人らには、次のとおり、ダイヤルQ2通話料の支払義務がない旨主張するので検討する。

(一) 被控訴人らはダイヤルQ2は公益性・公共性のない情報提供販売の営利事業であり約款一一八条の適用はない旨主張する。

前記認定の事実並びに《証拠略》によれば、ダイヤルQ2により提供される情報の中には、アダルト番組等と呼ばれるものが存在することが認められる。

しかし、通話料は電話回線を使用することにより不可避的に発生する債務で、その電話回線を使用することにより得られる結果には関わらず発生するものである。仮に、その通話内容により通話料の発生、不発生が決定されるとすると、その内容の吟味が必要となり、通信の秘密に関わる問題が発生する上に、先に述べた徴収経費を最小限にしようとする約款一一八条の目的に反する結果になり、到底妥当とはいえない。

したがって、ダイヤルQ2により得られた情報の内容がいかなるものであれ、電話回線を使用した以上、約款一一八条が適用されるというべきである。

(二) 被控訴人らは、ダイヤルQ2は郵政大臣の認可がないから、事業法三一条に違反する事業であり、約款一一八条の拘束力はない旨主張する。

しかし、ダイヤルQ2事業のうち、情報提供サービスは控訴人の電話回線を使用して行われるので、電気通信役務の提供に該当するところ、その利用形態が一般通話と異ならないことは前説示のとおりであり、その提供条件は、事業法三一条の認可を受けた約款に定められているので、郵政大臣の新たな認可は必要がないし、情報料回収サービスは電気通信役務の提供ではないから認可を要しない事業であり、いずれも法一条二項の「附帯する事業」に当たるというべきである。

したがって、被控訴人らの右主張は、採用することができない。

(三) 被控訴人らは、控訴人がダイヤルQ2の危険性を事前に加入者に知らせることなく導入しており、ダイヤルQ2通話料に約款一一八条を適用することは、その拡大解釈で加入者にとって不利益な不意打ちとなり、許されない旨主張する。

しかし、ダイヤルQ2事業は、前説示のとおり、提供条件について約款の変更を必要とせず、郵政大臣の認可を要しない事業であり、これを周知させたか否かは、約款一一八条の適用上考慮すべき事情とはいえない。また、本件で問題となっているダイヤルQ2は、主に平成三年の利用であるが、《証拠略》によれば、控訴人においては、そのころまでに、パンフレット、新聞広告などで一定の周知を行っていることが認められる。のみならず、仮に、主務大臣である郵政大臣の認可を不要とするダイヤルQ2事業の場合について、契約約款の変更に準じて考えるべきであるとしても、契約約款の変更に主務大臣の認可が必要とされる場合に、認可なしにこれが変更されたとしても、変更が恣意的な目的でなく、強行法規、公序良俗に違反し、又は特に不合理なものでない限り、拘束力を有すると解される(最高裁昭和四五年一二月二四日第一小法廷判決・民集二四巻一三号二一八七頁参照)ところ、本件においては、全証拠によっても、右のような事情が存するものと認めることができない。

したがって、被控訴人らの主張は、採用することができない。

(四) 被控訴人らは、ダイヤルQ2が控訴人とIPの共同事業であるから、情報料と通話料は不可分一体であり、通話料債権は、情報料債権の成立を前提とする付随的債権であり、被控訴人らが情報料支払義務を負わない場合にはダイヤルQ2の通話料支払義務は生じない旨主張する。

前記認定の事実並びに《証拠略》を総合すると、<1> 利用者がIPに電話をしてダイヤルQ2を利用すると、通話料と情報料が発生すること、<2> 控訴人の設備では、これを同時に計算するために、通話料相当の秒数と情報料相当の秒数を数学的に合成した「合成秒数」に基づき、ダイヤルQ2が利用される都度計算されること、<3> ダイヤルQ2に関する情報料と通話料は別個に計算され、控訴人がIPに支払う情報料を計算してIPの指定する銀行口座に送金されていること、<4> 平成三年一二月以前は、控訴人から利用者に請求するダイヤルQ2の通話料、情報料はその合計でしか記録されず、加入者にはその合計額で請求されていたこと、<5> 控訴人はIPから手数料として一番組当たり一か月ごとに一万七〇〇〇円及び回収代行の対象となった料金の九パーセントの支払を受けること、<6> ダイヤルQ2は、一般通話に比してその通話料が高額化しやすく、控訴人の収益の増加にもなること、以上の事実が認められる。

右各事実によると、ダイヤルQ2の通話料と情報料が不可分一体であるとする被控訴人らの主張に全く理由がないとはいえない。しかし、前説示のとおり、通話料は加入電話契約者と控訴人との間に、ダイヤルQ2情報料は利用者とIPとの間に、異なる当事者間における別個の契約に基づいてそれぞれ発生するものである。また、前説示のとおり、情報料回収代行サービスは、法一条二項の「附帯する業務」に当たり、法施行規則一条は、附帯業務について、「収支相償うように営む」と規定しているところ、ダイヤルQ2、端末機の販売等の附帯業務についての収支率(収益に対する経費の割合)は平成二年度は一〇一パーセント、平成三年度及び平成四年度は九八パーセントであって、前記認定の手数料額が、この原則に反するものとはいえないのである。そうすると、前記認定の事実をもってしては、未だダイヤルQ2が控訴人とIPの共同事業であることを窺わせる事情であるとはいえないし、また、法的には通話料と情報料との間に、一方を主とし、他方を従とする関係、あるいは一体不可分な関係を認めることもできない。

そして、他に被控訴人ら主張の事実を認めるに足りる証拠はないので、右主張はいずれも採用することができないというべきである。

五  不当利得返還請求の成否

1 被控訴人乙山を除く被控訴人らは、原判決別紙「請求金目録」の「請求金額」欄記載の各金員(これが右被控訴人らから控訴人に支払われたことは、当事者間に争いがない。)につき、これを控訴人の不当利得であるとしてその返還を控訴人に求めているところ、前記判断によれば、電話加入者はダイヤルQ2の情報料及び消費税につき支払義務を負わないので、情報料を支払っていない被控訴人甲野及び同戊田を除く右被控訴人らから控訴人に対して情報料として支払われた金員は、法律上の原因を欠く給付に該当し、同各金員につき控訴人の不当利得が成立する。

その額は、被控訴人丙川が一二四円、同丁原が二一万七八一五円、同乙野が一〇九万〇一七六円(なお、通話料と情報料を分計して請求していない分については、前記第三、二、2、(三)認定のとおり。)、同甲田が三七万四一七一円(なお、通話料と情報料を分計して請求していない分については前記第三、二、2、(二)認定のとおり。)となり、それらが控訴人に対し請求することのできる金額となる。

2 控訴人は、支払を受けたダイヤルQ2の情報料について、独自の利得はなく、現存利益もないから不当利得返還義務はない旨主張するので、検討する。

(一) 控訴人に利得がない旨の主張について

(1) 控訴人は、IPが提供した情報の対価の受領を代理しただけであって、自己に利得を保持していない旨主張する。

前記認定の事実に《証拠略》を総合すると、<1> ダイヤルQ2契約は、控訴人がIPの有する情報料の回収代行をすることを目的とするもので、法律行為を代理することを目的とする趣旨はないこと、<2> 情報料は「控訴人の機器により測定して、控訴人が定める計算方法により計算」(ダイヤルQ2契約一四条一項)され、その結果によってIPに支払われており、IPが情報料を算出した上でその回収を控訴人に委託しているものではないこと、<3> 「控訴人が回収代行を行っている間、IPは自ら回収または利用者に対する支払督促を行うことはできない」(ダイヤルQ2契約一八条四項)のであり、控訴人が回収代行を行う間は、債権者であるIPは利用者に対する請求権の行使ができず、控訴人のみが回収権限を有すること、<4> 平成三年一一月までは、控訴人から利用者に対しては、ダイヤルQ2の通話料、情報料はその合計額で請求されて、ダイヤルQ2の情報料が含まれることは明示されていなかったし、同月以後は、控訴人から利用者に請求するダイヤルQ2の通話料、情報料は分計して請求されるようになったが、加入者にはIPの名前を明らかにしないで控訴人の名で請求していること、<5> 被控訴人丁原との間では、情報料を含む電話料金未払分について、控訴人を債権者として債務承認弁済公正証書が作成されていることが認められる。

右認定事実によると、控訴人はIPから、控訴人の名において情報料を回収、受領することを委託されたものであり、IPの代理人として情報料の回収を行うものではないというべきであり、控訴人の右主張は理由がない。

(2) 控訴人は、利用者が情報料債務を負いながらこれを支払っておらず、利用者に利得が存しているのであるから、被控訴人らが支払った情報料を求償すべき相手は利用者である旨主張する。

しかし、控訴人、IP、加入電話契約者、無断利用者の間で、電話加入者が情報料債務を負担しないことは前説示のとおりであり、本件において、控訴人と情報料を支払った加入電話契約者である被控訴人らとの間で、控訴人が受領した情報料相当額を法律上の原因なしに利得していることは明らかであり、控訴人に利得が存しないということはできない。無断利用者の利得は、控訴人ないしIPと利用者間の問題であり、控訴人の主張はその前提を欠くというべきであり、控訴人の右主張は理由がない。

(3) 控訴人は、加入電話契約者である被控訴人らの控訴人に対する情報料の支払は利用者のIPに対する情報料債務を第三者弁済したものであり、控訴人には利得はない旨主張する。

しかし、被控訴人らの支払が第三者弁済に当たると認めるに足りる証拠はなく、かえって、被控訴人らが加入電話契約者自身の債務であるとして請求されて、これを支払ったのであることは、前記認定の請求内容から明らかであり、控訴人の右主張は理由がない。

(二) 控訴人に現存利益はないとの主張について

控訴人は、被控訴人らから回収した情報料はIPに全額支払済みであるから控訴人に現存利得はない旨主張する。

しかし、前記のとおり、控訴人が被控訴人らから徴収してIPに支払った情報料は、そもそも支払義務のない者から徴収したものであり、これをIPに支払ったとしても、IPの利用者に対する債権が消滅するわけではなく、したがって、控訴人は、IPに対して不当利得返還請求権を有するというべきである。のみならず、ダイヤルQ2契約一八条二項は「控訴人がIPに支払済みの料金の中に、回収できなかった料金が含まれていることが事後に判明した場合には、控訴人はIPに対して当該料金相当額を返還請求」することができる旨を定めており、控訴人が被控訴人らから回収済みの情報料をIPに支払ったとしても、控訴人が被控訴人らの不当利得返還請求を受けて、これに応ぜざるを得なくなり、結果として回収できないことになった場合にも、右契約条項によりIPに対し料金相当額を返還請求できると解するのが相当であるから、控訴人は、なお右債権の価値相当の利益を有しているというべきである(最高裁判所第三小法廷平成三年一一月一九日判決・民集四五巻八号一二〇九頁参照)。

控訴人は、IPに対する情報料の支払は、それが支払義務のない加入電話契約者から回収したものであっても、ダイヤルQ2契約に基づく給付であり、法律上の原因のない給付ではないから、控訴人がIPに不当利得返還請求をすることはできない旨主張するが、ダイヤルQ2契約上、控訴人がIPに支払義務のある情報料は、その支払義務のある者から回収したものをいうのであって、支払義務のない者から回収した場合には、控訴人はIPに対する支払義務はないというべきであり、その場合の支払には法律上の原因がないというべきであるから、控訴人の主張は理由がない。

そして、特段の事情のない限り、控訴人は被控訴人らから支払を受けた金額に相当する価値を保有していると推定されるところ、控訴人は、IPに対する返還請求権は一部時効消滅しているものがあり、また、返還請求の相手方であるIPを特定できないものもあるので、右の特段の事情がある旨主張するが、<1> 右の事情は、いずれも控訴人の責に帰すべき事情によるものであること、<2> IPに対する請求権の消滅時効の起算点は、被控訴人らに情報料を返還した時点からであると解する余地があること、<3> IPを特定できない点は被控訴人らは控訴人以上にそれを知ることができないのであって、これを被控訴人らの不利益に帰するのは妥当ではないことなどの事情を勘案すると、控訴人主張の右のような事情は、前記特段の事情に当たるということはできず、不当利得の成否を左右しないというべきである。

六  被控訴人乙山の加入電話契約の存在確認及び通話停止期間中の回線使用料の債務不存在確認

1 前記認定の事実並びに《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 被控訴人乙山は、平成三年三月ころ、控訴人(厚木支店)と加入電話契約(加入電話番号《略》)を締結し、同被控訴人の次男一郎が、神奈川県《番地略》メゾン厚木一〇二号室で右電話を使用しており、電話料金は同被控訴人が生活費などを仕送りしていた中から支払われた。

(二) 一郎は、平成三年六月一三日から同年八月二六日までダイヤルQ2を利用し、控訴人から電話料として平成三年七月分一八万一九三九円、同年八月分一一四万四七八三円を請求された。一郎がこれを支払わなかったため、同年八月二六日、同支店から呼び出され、未払分について月々一五万円宛の一二回分割で支払うように求められた。

控訴人は、同日、被控訴人乙山に通知することなく加入電話を発信停止にした。

(三) 被控訴人乙山は、平成三年一〇月七日、控訴人から同年七月分ないし九月分の電話料金としてダイヤルQ2情報料一二六万九二三七円、同通話料四三万一一四六円、その他料金五四六〇円の合計一七〇万五八四三円を請求されたが、控訴人に対し、ダイヤルQ2料金の支払を拒否し、それ以外の回線使用料等及び一般通話料のみを支払う旨通知し、同年一二月一八日及び平成四年二月一〇日の二度にわたり、その料金として五九一三円を控訴人に送付したが、控訴人からはダイヤルQ2通話料の支払義務があることを理由にいずれも受領を拒否された。

控訴人は、平成四年三月二二日ころから、着信停止にして、被控訴人乙山の加入電話の一切の利用を停止した。同被控訴人は、同月二五日、新たに電話を設置した。

(四) 平成五年四月二七日、控訴人は、被控訴人乙山に対し、ダイヤルQ2情報料を除いた電話料金として四五万三九五六円を請求したが、同被控訴人はなおこれに応じなかった。控訴人は、同年六月二二日、平成四年四月分及び同年六月分から平成五年五月分まで未払電話料金(回線使用料及び消費税)として、合計二万〇一三〇円の支払を催告し、右支払がない場合には、同年七月二日限り、約款二七条に基づいて加入電話契約を解除する旨通知した。被控訴人乙山は、これに対しても支払をしなかったため、同月二六日、加入電話契約が解除された。

2 控訴人による加入電話契約の解除は、基本料金の不払を理由としているところ、約款一一五条二項二号によると、加入電話契約者は利用停止期間中の基本料金(回線使用料)の支払義務があるとされており、右約款を不合理とする理由はない。

ところで、約款九二条によると、料金その他の債務について支払期日を経過しても支払わないときには、利用停止ができるが(同条一項)、その場合はあらかじめ利用停止の理由、利用停止をする日等を契約者に通知することになっているところ(同条二項)、被控訴人乙山に対して右の通知がされたことは、本件証拠上認めることができないが、右規定の趣旨は、突然利用停止をすることによって、契約者に不測の損害を被らせることがないようにするためと、契約者に支払の機会を与えることにあると解されるところ、前記認定のとおり、本件において、被控訴人乙山は、ダイヤルQ2通話料の支払義務がないとして、その支払をする意思がなかったものと認められるのであるから、右の通知がされなかったことによって、支払の機会を奪われたものということはできないし、また、右の通知なしに使用停止がされたことによって、同被控訴人が不測の損害を被ったことを認めるに足りる証拠はない。そして、控訴人は被控訴人乙山が二度にわたり、ダイヤルQ2料金以外の回線使用料等及び一般通話料を控訴人に送付した際には、ダイヤルQ2通話料(情報料は含まない。)の支払義務があることを理由に、その受領を拒否したものであるところ、加入電話契約者にダイヤルQ2通話料の支払義務があることは、既に説示したとおりであるから、控訴人において、前記経緯のもとに、利用停止等の措置をしたことに違法があるとはいえない。更に、被控訴人乙山は、控訴人から、利用停止後の平成五年四月二七日、ダイヤルQ2情報料を除いた電話料金として四五万三九五六円を請求されたが、なおこれに応じず、同年六月二二日には、平成四年四月分及び同年六月分から平成五年五月分まで未払電話料金(回線使用料及び消費税)として、合計二万〇一三〇円の支払を催告され、右支払がない場合には、同年七月二日限り、加入電話契約を解除する旨の通知を受けたのに、これに対しても支払をしなかったため、右契約を解除されるに至ったのであるから、原判決のようにダイヤルQ2通話料の支払義務がないとする立場があることを考慮しても、利用停止期間中の基本料金の不払を理由に加入電話契約を解除することが、信義則上許されないということはできないというべきである。したがって、控訴人のした解除は有効であるから、被控訴人乙山の前記加入電話契約は存在しないというべきである。また、被控訴人乙山は、平成四年四月分及び同年六月分から同五年五月分の基本料金の支払義務を負っているものというべきである。

なお、控訴人がその請求をすることが信義則に反するともいえない。

七  まとめ

1 被控訴人らの債務不存在確認請求のうち、被控訴人甲野の請求は理由があり、同乙山、同丙川、同丁原、同戊田、及び株式会社甲田の請求は、控訴人に対し別紙「確認債権目録その2」の「債権金額」欄記載の金額の支払義務がいずれも存在しないことを確認する限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきである。

2 被控訴人らの不当利得返還請求は、控訴人に対し、被控訴人丙川が一二四円、同丁原が二一万七八一五円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成四年四月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、同乙野が一〇九万〇一七六円、株式会社甲田が三七万四一七一円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成四年一〇月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被控訴人甲野、同戊田の各請求及び同丙川、同丁原、同乙野及び同株式会社甲田のその余の請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。

3 被控訴人乙山の加入電話契約の存在確認請求及び電話料金の支払義務の不存在確認請求は、いずれも理由がないから棄却すべきである。

よって、右と一部異なる原判決を右のとおりに変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年五月二六日)

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 土屋靖之 裁判官 竹内純一)

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